
老齢年金は、原則として65歳から受給が開始されます。
ただし、希望すれば60歳から65歳までの間に繰上げて受け取ることも可能です。
なお、繰上げ請求によって受給を開始した場合、年金額は生涯にわたって減額されます。
現在の経済状況に加え、今後も物価の上昇や社会保障制度の見直しが見込まれる中、現行の物価スライド制ではインフレに十分対応しきれず、年金の実質的な価値が目減りするおそれがあります。
また、繰上げ受給と通常受給を比較した場合、損益分岐点はおおむね80歳を超えるとされており、早期に受給を開始することは、現実的かつ合理的な選択と捉えることもできます。
さらに、心身ともに元気な今と、10年後・20年後とでは、お金の価値観や使い方に大きな違いが生じる点も無視できません。
将来的に制度改正が受給者に有利に進む可能性は決して高いとは言えず、「早めに受け取り、今のうちに活用する」ことが、より有意義なお金の使い方につながると考えています。
(もちろん、最適な選択は各人の経済状況やライフプランに応じて異なります。)
運用で増やすという考え方
年金を繰上げ受給すると、1カ月あたり0.4%ずつ減額され、その減額は生涯続きます。
たとえば5年早く受け取る場合、年金額は24%少なくなる一方で、5年間早く受け取った分が積み上がるため、総受給額が65歳の通常受給を上回るのはおおむね80歳前後といわれています。
ここまでは一般的な説明ですが、これは「受け取った年金をすべて生活費に使い切る」前提のシミュレーションです。
もし現役収入などで生活をまかなえているなら、早く受け取った年金を運用に回すという選択もあります。
うまく運用できれば、減額分を補い、損益分岐の年齢をさらに先送りすることが可能です。
たとえば、繰上げ受給で得た年金を毎年積み立て、年2%程度で運用できた場合、損益分岐点は84歳前後まで延びるという試算もあります。
つまり、ある程度の運用リターンを確保できれば、繰上げ受給がより有利に働くケースもあるわけです。
ただし、給与所得が高く税率が高い人の場合は、繰上げ受給のメリットである「早期運用による生涯累計額の最大化」が、税負担による投資元本の目減りで相殺される可能性があります。
結果として、経済的な魅力が薄れるケースもある点には注意が必要です。
(投資先によってはマイナス運用になる可能性もあるので、そこは自己責任ですね😊)
答え合わせは、この世を去るとき
結局のところ、年金の受給タイミングが正しかったかどうかが明らかになるのは、自身の最期を迎えたときです。
受給額の最大化という意味ではそれが「正解」と言えるかもしれませんが、本当に重要なのは、それをどれだけ有効に活用できたかどうかです。その点においては、事前のプランニングによって最適化することが可能です。
受け取った年金を何に使いたいのか──もし将来の不安に備えることが目的であれば、繰下げによって1回あたりの受給額を増やす選択が有効かもしれません。
一方、人生を豊かに楽しむためであれば、心身が比較的元気なうちに受け取る、すなわち前倒しの受給が適しているでしょう。
制度改定の行方は不透明な部分も多く、将来にわたって条件が有利になる保証はありません。
そうした中で、繰上げによって受給額を確定させておくことも、ひとつの合理的な判断だと考えられます。
私自身は、繰上げ受給という選択をします。

